親友の死を受け止められず悩む大学生(直弘)と自死で息子を失った大学教授(私=姜尚中)の長いメールのやり取りで全ての物語が語られている長編小説である。
物語の半分以上を占める、直弘君たちの演劇部がゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe)の『親和力』を日本の高度経済成長期と東日本大震災後の時代状況に読み替えて演じる部分は、絶妙な例えと新鮮なものの見方で、小説としての面白さと、著者の伝えたい強いメッセージが伝わる。 文明とは何か、幸福と愛とは何か、生と死、生きることの意味など、哲学的な深い話をわかりやすく語っている。なかでも、死と生に対する苦悩が死者と生者の立場から描かれ、震災の後、喪失感で苦しむ人々へ生きる意味を伝えようとしている。また、誤った文明の産物である原発事故へのおもいも語られている。それぞれ、“生きとし生けるもの、末永く元気で”、“いったい、俺たちどこで間違ったんだ”と、我々の心に響く深いメッセージを残してくれる。
この夏休みに、是非一読をお勧めしたい。 呉世雄 2013年7月