SDGsで育みたい力

私たちが暮らす世界はたくさんの問題であふれかえっています。多くの科学的研究の成果から、今のままの暮らしを続けていくとしたら、地球そのものが限界をこえて取り返しがつかなくなることが分かってきました。記録的豪雨や熱波、大規模な森林火災など、世界各地で頻発している異常気象はその一例でしょう。他にも、貧富の格差の拡大、経済戦争、難民・移民問題、核兵器の脅威など、世界が協力して取り組むべき問題(「地球規模の問題」)は、数え上げればきりがありません。
時間をさかのぼれば、30年以上も前から、私たちの世界は「持続不可能」だと言われてきました。その後、世界が協力して様々な取り組みをしてきましたが、問題の解決にはまだ遠く、新たな問題が増える一方でした。このままでは私たちの未来はたいへんなことになってしまうという懸念が広がる中で、持続可能な未来を目指す切り札として、SDGsは生まれました。
SDGsは、Sustainable Development Goalsの略字で「持続可能な開発目標」と訳されます。しかし一般には、SDGs(エス・ディー・ジーズ)とアルファベットで呼ばれることが多いようです。最近、新聞やテレビなどのメディアで取り上げられる機会が増えているので、SDGsの言葉を聞いたことがある方も、少なくないのではないでしょうか。
SDGsは、2015年の国連サミットで、国連加盟国のすべての国が賛成した世界共通の目標です。これまでのように、先進国が主導するのではなく、新興国も途上国も一緒に取り組む目標として掲げられました。また、決定までのプロセスも非常にユニークで、企業、研究者、女性、若者など様々な立場の人が協議に参加し、世界中から1000万人もの人の声が集められ目標に反映されています。  
一言で表現するなら、SDGsとは、2030年までに達成すべき世界の姿を表した、いわば未来を変えるための目標です。さまざまな地球規模の問題が17の領域に分けられ、目標が設定されています。さらに、17個の目標を達成するために、ターゲットと呼ばれる具体的な目標が169個掲げられています。17個でも多すぎるのに、169個の目標になんて、とても取り組めないよという声が聞こえてきそうですね。

しかし、SDGsには、そのすべての目標を貫いている特徴がいくつか見られます。その特徴を、学びや教育の視点から捉え直してみると、次のような3つの視点が浮かび上がってきます。SDGsが、未来を担う子どもたちにどんな力を育もうとしているのか、ここで整理してみましょう。

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SDGsの大きな特徴は、すべての目標がつながり合っているということです。
ですから、みんなが17の目標のすべてに取り組む必要はありません。自分が本当に大切だと思う問題に1つ取り組むことができれば、それを入り口として、他の目標や問題につながることができるからです。SDGsの1つひとつの目標は、さまざまな世界の問題へと続く入り口だと考えると分かりやすいでしょう。
ここで大切なのは、つながりに気づく力です。一見すると関係がないように見える問題でも、相互に深くつながり合っていることに気づかなければ、世界の複雑な現実を理解することはできません。また、世界の問題と自分の日常とのつながりに気づくことも重要です。世界の問題を、遠い外国の出来事として学習し理解するだけでは十分ではないからです。SDGsでは、世界の問題を自分ごとして捉え、自分たちの日常から行動を起こすことが求められています。

互いのちがいを認め合い共に生きる力を育むことが、差別のない平和な世界の実現には欠かせません。SDGsでも、「誰も置き去りにしない(No one will be left behind)」という理念のもとで、それぞれのちがいで差別されない世界が目指されています。貧困に苦しむ人、女性、障害者、高齢者、難民など、弱い立場に置かれている人たちはもちろんですが、地球上に暮らす他の生命さえも、置き去りにせず、共に生きることが目標とされているのです。
互いのちがいを認め合う多様性に開かれた世界では、自分の価値観を絶対とせず、どんな問題にもさまざまなものの見方があることに気づくことが大切です。残念ながら、SDGsの実践に、唯一絶対の正しい答えはありません。互いのちがいを認め合い共に新しい価値をつくりだしていくプロセスこそが、新しい答えになっていくのです。

すでに述べたように、SDGsは、2030年にあるべき未来の姿を描き出す目標です。したがって、未来を見つめ、私たちが生きている今を変えることが期待されています。未来の目線から、私たちに今何ができるのかを考え、自分たちの価値観やライフスタイルを見直すことが求められるのです。また、パートナーシップの考えのもと、行政も、企業も、学校も、大人も、子どもも、さまざまな立場の人が、垣根をこえて未来のビジョンを共有し、共に社会を変える力になることが望まれています。
ここで大切なのは、私たちの未来は1つではないということでしょう。私たちの行動しだいで、さまざまな未来を作り出すことができます。何も選択せず、何もしないことを含めて、私たちの行動と選択が、未来の世界に影響を与えていることを忘れてはなりません。SDGsは、未来を変える主体として、私たち一人ひとりの行動に、世界の未来を託しているのです。