98/4/2 山田恒夫・足立隆弘 英語リスニング科学的上達法 講談社ブルーバックス(B1206)98/3/20刊(新書版、297ページ、CDロムソフト付き、1600円)

 この本は、外国語としての英語音声の聞き取りの学習方法を主題としている。外国語音声の聞き取りは非常に難しいものであるが、特に「r」と「l」の発音訓練を中心に書かれている。著者は心理学の出身らしく「第8章リスニングの科学」が音声知覚の心理学的研究の章でありおもしろい。CD-ROMに実験プログラムや音声素材のマルチメディア情報を収め、実際に音声知覚や音声識別の心理学的実験ができるようになっている点が特に新しい試みである(システムはWindows95である)。

 マルチメディア教材を作るには多くの時間・人が必要であるが、このような書籍は今後もっと増えそうだから、実験心理学の教科書は魅力に富むものになりそうである。もうひとつ、実験データをインターネットにより著者らの研究所のコンピュータと接続してデータ収集ができるようにしてある(読者参加の調査)。言語音声や文化的な現象を広範囲に共時的に調査できる。このような試みはコンピュータを利用した教材としてすばらしいものであると思う。

 

 心理学の基礎研究がなにか目的をもたならければならない場合にはこのような実際的な領域、特に学習や教育が応用分野になる。同時に、知覚学習そのものの全体的理解や基礎的な発展についてもう少し記述があると良いのではないかと思う。)外国語学習の目的や背景はさまざまである。それらの問題を問うことはもちろん本書の目的ではないのではあるが。

 本書の構成第一部は本書の特徴であるマルチメディア教材についての解説。フォルマント分析ソフトが用意されており、自分の声の「声紋」をみることができる。また、英語の子音、母音を聞くことができる。「r」と「l」の識別実験のプログラムが用意されている(同定実験法、ABX弁別テスト)。これはかなりむずかしい。

 第二部は英語の音韻構造についての解説。第三部は聴覚心理学の基礎知識およびリスニングについての心理学的解説。第四部は音韻知覚の学習条件の考察および各種の学習法、マルチメディア教材の紹介、今後の学習環境の変化にかんする考察が行われている。

 学習方法に関する心理学理論は一般的な学習についての現象の記述であり、音韻知覚そのものの成立や習得の「しくみ」についてはまだまだ満足なものとはいえないのではないだろうか。しかしながら、本書は外国語のリスニングに関心をもつ人には大いに参考になり、具体的な訓練プログラムが付加されているという点でもおもしろい本である。 

 

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