98伊田ゼミナール合宿メモ

今年のゼミナール合宿は以下のような日程でちょっと趣向を変えて行った。

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0:研修の目的

社会や産業界における心理学の基礎研究・応用研究を知る。このような研究の盛んな企業を数社選択し、研究所を訪ねる。


合宿スケジュール

ここでは、工業デザインにおいて心理学的実験法が使われていた。手法は結構心理学的には古典的なもので、教科書的なものだった。通常の電気製品使用時のデータでは、生理的データ(筋電位や脳波など)をとったこともあるが、あまりよい指標とはいえないということだった。一方で、主観評価はすぐれているのだが、「上司を説得する際に」高度の処理を(因子分析など多変量解析)行っていないと、同じデータでも信用されないことがあるとのことである。「主観的判断」はなみの測定器をはるかにしのぐ能力をもっているのだが、「主観性」故にこのような扱いを受けることがあるのだろう。主観的判断を「客観的」な価値あるものにするための方法は心理測定法や官能検査法が提供できるだろうし、これらの本質的な課題だと思う。

最近はやはり情報化の変化により、ソフトウエアや動的に変化する表示装置の「心理的評価」法が求められている。


9/7(午後5時30分〜6時 チェックイン(宿泊)東京ガーデンパレス


9/8(火曜日)


広報の係りの方を先導に、所内をバスツアー。人間工学・安全の研究を見学。「乗り心地」を調べる振動台や、衝突実験の装置・ダミー人形(オスカー)を見学。

ここでは、振動と「乗り心地」の関係が実験できるようにシミュレータが開発された。最近では、新しい振り子型列車の揺れが乗り物酔いを起こしやすいのかもしれないということで、各種の乗り物で乗り物酔いの要因になる揺れ方が研究されている。船などではガイドラインができているそうだ。新しい車両では、これらのデータが使えないこともあるそうで、国際的なガイドラインが策定中であるとのこと。なかなか実際に酔うまでは実験できない。個人差も大きいし、実車と実験室とは違いが大きくて要因分析はなかなか大変らしい。このガイドラインの中にもなんらかの心理学的測定法が採用され、官能検査値が基準に含まれるはずだ。心理学の各種の実験手法が直接生かせる研究課題だと思う。

衝突実験。時速30キロほどの衝突でも、衝突方向の前席に座っている人は他の客に押されて肋骨など骨折の危険があるとのことだ。また、衝突そのものよりもそれにより転倒したり・ぶつかったりすることで骨折など大きな怪我につながるそうだ。衝突の際には進行方向の反対を向いて背中でショックを受けるのが一番よいのだそうだ。新幹線などは進行方向に向いて座わるのだが、これを反対にしたほうが万一の場合にはまだましなのだろう。進行方向の反対を向いているというのは「心理的に」問題があるかもしれない。ただ、研究室としては30キロ程度の衝突を対象にして研究しているとのことで、これより大きな衝突については「想定」できない。緊急時の人間行動など心理学的な研究も必要だろうと感じた。

超伝導モータの実験も見学した。強力な磁場を示すデモとして糸にむすばれた5円玉ほどの金属が水平方向に吸い寄せられていた。リニアーモータ車は初期のモデルでは心臓ペースメーカに影響がでたり、時計が止まったりする可能性があったそうだ。


9/8(午前12時30分)移動・昼食(渋谷東横デパート)


9/8(午後1時30分〜)JIST(日本総合技術研究所)(地下鉄・半蔵門駅すぐ)

午後はこの時間の予定であったが、移動・昼食に時間を予想以上にとられ、JIST研修は午後3時からになってしまった。もちろん電話連絡をしたがJISTには大変迷惑をかけてしまった。JISTはさまざまな調査をおこなうシンクタンクである。一番最初には地図情報のディジタル化からスタートということであった。現在は独自の理論による人口予測やそれに関連したマーケティング調査が行われている。みずから「ぼろは着てても、こころはにしき」が「社是」であると表現され、専門家集団らしい対応だった。大きな組織にはできない研究や調査を行わなければ生き残ることはできない。ここではさまざまな調査が行われているが、やはり心理学との関連では「主観評価」の方法が模索されていた。特に近未来の「地図情報」に関する研究がおもしろかった。このようなシンクタンクの調査は非常に現実的でまたマクロなものであるから、人間個人個人の「主観的評価」と社会総体として「評価」の問題には、ずれや食い違いが現実にもあり、この面の研究も必要なのではないか。

またこの研究所では「産学協同」研究に熱心で、課題によっては「現実」データにもとづいて卒論、修論を作成するための学生の受け入れるも歓迎している。


9/8(午後5時30分)東京駅・八重洲口高速バスターミナル・無事解散

時間が押した関係で、半蔵門から地下鉄を乗り継ぎ、迷路のような東京駅を早足で横断し、バスターミナルに到着したのは予定の10分前であった。水戸へ帰着する学生を見送って、帰宅の途へ。


各研究所で共通していたことは、「感性による評価」、「官能検査」が心理学の測定法として重視され、実際に使用されていた。この点で、大学での心理学研究法や実験実習の知識は実業界においても有用であることを確認することができた。しかも、それらの技法は心理学の分野ではかなり以前に確立されている基礎的な方法であった。また、新しい課題としては、(コンピュータプログラムやディスプレイに呈示され利用者の操作に応じて画面情報が変化してくような)動的に変化する情報にたいする「心理的評価法」が求められているように感じた。これらの評価法は各社のガイドラインが一応はあるようだが、技術的手法としても「学問的」にも定まったものはない。合宿の当初の目的は果たすことができ、有意義な研修であったと(教員側では)感じているのだが、学生側の印象はどうだっただろう。今回は研究所やシンクタンク3カ所であったが、心理学の知識を適用している研究所や会社はほかにもたくさんある。増山先生や院生の方と、また一緒に行きましょうということで半蔵門で分かれた。

各研究所のみなさまにはお手数をおかけしました。本当にありがとうございました。また、増山先生にはこのような機会をもうけていただいたことをあらためて御礼申し上げます。


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