2003年度春セメスター・知覚心理学・授業日程
(1) 4/10 NHK 人間家族(ビデオ)20分
この番組は小学生向けに編集されたものだが、開眼手術後の視知覚の形成過程について非常にわかりやすく解説されている。知覚心理学の研究のあり方や意義について示唆するところの大きい貴重な記録である
初めて見る世界についての哲学的問題と実証的研究 心理学研究の意義・方法
  • 発達的方法
  • 病理的方法
  • 応用研究と基礎研究
鳥居修晃 (1986) 先天盲の開眼手術と視知覚の形成 別冊サイエンス、特集視覚の心理学III(色・運動・イメージ)日経サイエンス社、1986、p45−55
(3) 4/24 障害の概念:開眼手術後の視知覚の成立過程
知覚的障害の概念
  • WHOの定義
  • 障害概念の人為的性質
  • 一次障害・二次的障害

障害援助における心理学的研究の意義

(4) 5/1 視知覚の成立条件と生成序列過程
有効な援助のためには、感覚・知覚諸機能の成立条件と生成過程を理解することが必要である

光と視覚系の基本的な構造

  • 光とは
  • 視覚系

視知覚の成立過程

  • 明暗の識別
  • 色彩の分化
  • 形態の識別
  • 立体物の識別
  • 事物の同定・複雑な事物の認識
  • 表情の知覚・認知
  • 「共同実験」
「障害」の機能回復訓練は長期にわたる困難なもので、心理学的な支援が必要とされる。しかし、社会的に適応し、完成した人格をもつ存在について、機能回復するべきか否かという問題も難しい選択である。
  • 鳥居修晃 () 視知覚の発生と成立(開眼手術後の視覚体験) 現代基礎心理学3知覚II(認知過程)東京大学出版会p45−79
  • 鳥居修晃・望月登志子 (1997) 視知覚の形成2(開眼手術後の視空間と事物の識別)培風館
  • 望月登志子(1993)「顔の認知とその成立過程」、(鳥居修晃編「視覚障害と認知」、放送大学教材 1993)第14章
  • 鳥居修晃 (2001)開眼手術後の視知覚(第7章)、知覚研究の応用・感覚代行(第15章)(相場覚・鳥居修晃・編著 改訂版・知覚心理学 放送大学教材)
  • 適切な視知覚の形成訓練ができなかった場合の例としては、オリバー・サックス(2001)の「見えていても見えない」を参照。 オリバー・サックス(2001)「火星の人類学者:脳神経外科医と7人の患者」ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
(5) 5/8 視知覚の成立条件と生成序列過程(つづき)
盲人歩行についての研究 (視知覚の成立過程・つづき)
  • 表情の知覚・認知
  • 「共同実験」
VTR 「開眼手術(初めて見る世界)」現代心理学編アポロンビデオライブラリー(30分))

視覚障害に関する工学的な研究。盲人歩行の感覚的手がかりをあきらかにしている。行動手がかりの分析は知覚心理学の研究とも共通するものである。工学の分野においても感性の研究はさかんに行われているようだ。感性工学や福祉工学というように呼ばれている分野では心理学的な研究手法も有用である。
  • 伊福部達 (1993) 「気配のもとを聴覚から探る」日経サイエンス93年10月号p.39-46
  • VTR 「TBS噂の現場:統一されない点と線」(点字ブロックの諸問題)
  • 斉藤さん卒論(2000年度)
(6) 5/15 ソナー・エイド適用のケースからみた感覚代行技術と心理学的援助・視知覚の発達
(盲人歩行 つづき)
感覚知覚障害援助の基本的方針

感覚知覚障害の援助には「保有している感覚を活用する」「他の感覚を活用する」方法が考えられる。最近、新しい感覚障害の援助として感覚代行技術が発展してきている。視覚障害の領域では、超音波によるエコーロケーションの原理を応用した「ソナー・エイド」(ソニック・ガイド)が実績をあげている。ソナーエイドを装着した研究や実践例は知覚心理学的にも興味深く、また、意義深いものである。

  • 装着研究の例(バウワー、T.G.R、「子どもの世界」)
  • ソナー・エイド(ソニック・ガイド)の仕組み
    • 空間の定位
    • 「純粋知覚形式」
  • 発達理論から考えた最適装着時期の問題(Siegler、1982)
    • 発達条件と適応能力
    • 援助技術の選択肢の一つ
    • 知覚の発達過程の理解の重要性
    • 模倣行動の基礎
  • R.S. Siegler 子どもの思考  誠信書房、1982、第5章 知覚の発達
  • T.G.R.バウアー「子どもの世界」教育心理学年報、第24集、119-122
  • Humphrey, G. K., and Humphrey, D. E., (1985), The use of binaural sensory aids by blind infants and children:Theoretical and applied issues, Applied Developmental Psychology, vol.2,59-97.
  • Aitken, S., & Bower, T. G. R. (1982), Intersensory substitution in the blind, Journal of Experimental Child Psychology, 33, 309-323.
(7) 5/22
(ソナー・エイドつづき)
(ビデオクリップ)「TBS噂の現場:統一されない点と線」(点字ブロックの諸問題)(つづく)
(8) 5/29 視知覚行動の機能的異常(発達障害児事例)
「うわさの現場」解説(つづき)

伝統的な知覚心理学の研究分野ではないが、知覚機能や認知機能の発達や障害と深く関わりがある発達障害事例も存在する。顔や表情にはこのような生物的な重要性が存在する。人においてはいわゆる非言語的な交信(コミュニケーション)や社会的交信に重要な役割を果たしている。最初にこの方面の研究を紹介し、顔にたいする忌避を示す発達障害事例について知覚心理学的な対応と考察を行う。
  • 顔・表情の研究
  • 眼や顔刺激への忌避(発達障害と知覚)
    • 知覚心理学的対応
  • (実験手続き上の関連事項)瞳孔反応の測定方法(pupilometrics)その他の視覚障害 ・認知障害
  • 伊藤英夫・平井久 (1982)「行動異常者の諸現象・:行動学的視点」、現代基礎心理学11(平井久編、行動の異常)、東京大学出版会、第三章
(9) 6/5 弱視
弱視の機能的分類
弱視の種類と理解(視力・視野の違い)
弱視の補償
(社会生活・教育においての配慮すべき事項)
  • 鳥居修晃、視覚障害と認知、放送大学教材(中野泰志著、6〜9章)
  • 東京女子大学・小田研究室(視覚障害心理学関係の資料・リンク)http://www.twcu.ac.jp/~k-oda/oda.html
(10) 6/12 色覚とその障害:色彩知覚の基本的事項
色覚障害はもっとも身近な「障害」事例といえるかもしれない。一般的に「色盲」という言葉が用いられているために、誤解や無用の社会的障壁が設けられてもいる。これらの多くは色覚についての知識の欠如に由来する人為的な障害である。
  • 色覚障害の理解
    • 社会における色覚障害の諸問題
    • 測定法(石原式色覚検査票・アノマロスコープ)
    • 対策(一律排除でなく実際場面での検査・測定を)
    • ユニバーサルデザイン(教科書の配色・信号機の色)色彩心理学者の貢献
  • 日本色彩研究所(編)カラーコーディネイターのための色彩科学入門 (色彩の基本的な知識がわかりやすく解説してある。カラー図版もきれい。)
  • 高柳泰世・つくられた障害「色盲」・朝日新聞社・1996
  • 色覚問題研究グループぱすてる
    (検査相談機関の紹介、進学と就職についてのアドバイス、色覚110番(電話相談)、色覚問題に関する情報サイト)
    http://www.pastel.gr.jp/
  • (VTR) ETV8 見直される色覚異常
  • (VTR ) TBS「報道特集」(2002年11月24日放送)「色覚バリアフリーへ切実な訴え」
  • (色覚型シミュレータVischeck) http://www.vischeck.com/vischeck/
(11) 6/19 知覚・認知の発達(新生児・乳幼児心理物理学)
(つづき)色彩心理学
  • 色覚型
  • 色覚型のシミュレーションソフトVischeck. 混同色のイメージはわかりにくいものだが、この色覚型のシミュレーションソフトがわかりやすい。上記のサイトでみることができる。ただし、このような色合いに見えている、ということを示しているのではないことに注意しよう。
  • 色彩知覚・色彩の心理物理学(色の3属性・混色・表色系)
  • 色覚の理論(三原色説・反対色説・段階説)
  • 色彩の応用(環境デザイン・流行色・色の好み)(次回へ)
  • 色彩と色の象徴性についての文化人類学的研究(次回へ)

オリバー・サックス 色のない島へ 早川書房 1999

■6/26 休講
(12) 7/3 知覚の発達・視知覚に関係する認知的障害・失認
新生児や乳幼児はどのような感覚・知覚の世界に生きているのだろう。新生児や乳幼児の感覚・知覚・認知能力の測定法は近年発達し、新生児心理物理学と呼ばれる研究領域を成している。新生児や乳幼児はまだコトバをもたないのが、行動や生理学的な測定値から推測する方法がある。代表的な方法は乳幼児の行動の特徴を利用した「順化・脱順化」法、「注視選択」法がある。
  • 視覚の基本的機能の発達とその測定(視野、視力、色覚)
  • (聴覚の測定は秋セメで)
  • 新生児・乳幼児の知覚発達

これらの測定方法の発達は次のような意義がある。

  • 感覚・知覚能力の状態をより正確に知ることができること。従来知られてきたよりもはるかに乳幼児は早期の発達段階において諸感覚を通じて能動的な存在であることが明らかになってきている。

このような発達の状態が明らかになることによって、発達障害を適切に判定することができるようになること。人間のいろいろな能力の発達過程を知ることにより、障害があるばあいに適切な対応がとれるようになる。

早期感覚遮断・感覚遮断化実験
視知覚の成立条件・視野の機能による分類・眼球運動

  • 鹿取廣人 (1982) 認識機能の障害、(講座 現代の心理学、5認識の形成、小学館)
  • 杉下守弘 (1983) 右脳と左脳の対話、青土社、(第三章、大脳の破壊で生ずる精神機能の障害)
(13) 7/10:閾値と「閾下」知覚?

「意識性」と閾値の定義
心理学史のなかの閾下知覚研究
現代的研究 注意と 前注意過程

  • 本田仁視 (2000) 意識・無意識のサイエンス:症例と実験による心の解剖 福村出版(第8章、9章)
  • 下条信輔(1996) サブリミナル・マインド 中公新書
(14) 7/17 社会の中の知覚的問題(閾下知覚?)

閾値の定義・測定法による相違

まとめ:「知覚は行動のためのデッサンである」

知覚心理学の展開:社会の中の知覚心理学(新聞や雑誌にみられる関係職種)

R.グレゴリー 脳と視覚:グレゴリーの視覚心理学 ブレーン出版 2001
■(15) 7/24 定期試験
(指定された自筆ノートのみ持ち込み可)
秋セメスター 
春セメスターは視覚の話題をとりあげた。秋セメスターは他の感覚・知覚の話題をとりあげる。各感覚は講義の便宜上おのおの分けて取り上げているが、実際にはすべての感覚・知覚は協同して全体的に機能している。
  • 聴覚
    • 人工内耳装着における心理学的問題
    • 言語発達と聴覚の障害援助・言語治療援助
    • 音声の知覚・識別訓練
  • 痛み
    • 痛みの測定・痛みの理論
    • 幻肢
    • プラシーボ反応・医学的応用
  • 情動の知覚・情動知覚の二要因理論
  • 幻覚・イメージの「客観的」研究
  • 味覚・嗅覚・産業的応用・病理
  • 触覚(視覚との比較・点字)
  • 温・冷感覚
  • 体性感覚
  • 体の位置・平衡感覚・地理的知覚(認知地図)・順応
  • 動物の感覚・知覚能力
  • 共感覚現象・マックガーク効果・オノマトペ
  • 知覚と動作の共応
  • 感覚・知覚研究の応用分野
    • 障害援助
    • 感性研究の産業的応用
    • 感性研究と安全
  • 「われわれは何をみているのか」
    • 感覚・知覚に関する学説(分化説・「身」・「生きられる環境世界」)