2004年度秋セメスター・知覚心理学特講・授業日程
「知覚は行動のためのデッサンである」
1 痛みの心理学 9/30 R004
(0)秋学期のはじめに:心理学と仕事のカタログ
(1) 痛み感覚 痛みの性質(痛み感覚は多元的である)
- 痛み感覚の多元性
- 痛み感覚の二要因モデル・三要因モデル
佐藤(編)「痛みのはなし・研究から、臨床から、実践から」日本文化科学社
2 痛みの臨床 10/7 R004
痛み感覚の測定(痛みの心理尺度構成)
- SATO
- MPQ
- 行動的測定法
痛みのゲートコントロール理論
- 実験痛と臨床痛
- 痛覚の基本的な性質(実験痛と臨床痛)
- プラシボ反応
東山・宮岡・谷口・佐藤「触覚と痛み」ブレーン出版2000 第2部(10章〜16章が痛み感覚について)
R.メルザック・P・D・ウオール「痛みへの挑戦」誠信書房1986
(R.Melzack & P. D. Wall, The Challenge of Pain, Penguin Books,
1982)
痛みのプラシボ反応の実験で、信号検出理論を適用してプラシボ反応が痛み感覚そのものの大きさが変化するのか、それとも痛みの閾値が変化するのかを検討した実験がある。これによると閾値(判断基準)が変化すると解釈できる結果が得られている。佐藤(編)「痛みの話」。信号検出理論についてはちょっとややこしいので、「心理学に必要なコンピュータ技術」の第2章を参考にしてください。
痛み感覚の「暗示効果」については久下沼さんが卒論で実験。条件反応の可能性については「かゆみ」感覚で富岡君が卒論で実験している。
幻肢痛についてはラマチャンドラ「脳の中の幽霊」
メルザック「幻肢」日経サイエンス1992.6月号
3 情動の知覚 10/14 R004
臨床痛と実験痛(つづき):プラシーボ効果
痛み治療と心理学
特殊な痛み感覚
- 投射痛・関連痛
- 「幻肢痛」
- 幻肢痛の疑似体験実験(メルザック)
H. G. ホフマン バーチャルリアリティ医療:ゲームで克服する痛みと恐怖 日経サイエンス 2004/11
4 情動の知覚(1) 10/21 R004
情動知覚と原因帰属理論
情動知覚の二要因 理論 堀哲郎 脳と情動:感情のメカニズム 共立出版(第8章 情動体験)にくわしい解説があります。
5情動の知覚(2)10/28 R004
6 情動の知覚(3)11/4 R004
情動知覚の二要因理論(つづき)(情動理論の拡張・情動とストレス対処・フラストレーション)
7 11/11 休講
7 情動の知覚 11/18 R004
8 一般感覚(空腹・渇き)・ 食行動 11/25 R004
一般感覚・日常的なかかわり
空腹・渇き感覚と食行動
- 食物の好き嫌い(食物嫌悪)
- 拒食・過食
- 体型(ボディ・イメージ)についての自己知覚
- 食事行動の多様性と特徴・嗜好
- 摂食行動(ダイエットはなぜ成功しにくいか)ジンバルドー参照
ジンバルドー 現代心理学II サイエンス社(9章ホメオスタシス機構としての生物学的動因)空腹と摂食)
R.Schmidt(Ed.)感覚生理学 金芳堂 1980 第9章 渇きと空腹
今田純雄(編)食行動の心理学 培風館 1996
対人知覚と自己知覚 現代基礎心理学(8)東京大学出版会 第1章 動機の行動論的機制
9 味覚(1) R004 12/2
(食行動のつづき)
- 味覚の役割
- 味覚のあそび・文化
- 味覚の基本的特徴
- 基本味覚
- 味覚の心理物理学・測定法
- 相互作用
- 嗜好:味覚の障害
感性研究の産業的応用 (産業における味覚・嗅覚の官能検査(センソリーテスト)の応用例
DIME 1995,11/2号Business Wars”新食感”をつくれ
官能検査(Sensory Test)や心理測定技術は産業界で非常に応用範囲が広く、これらの技術は心理学の基本的な方法(心理物理測定法・心理検査法・イメージ調査法)が基礎になっており、心理学を生かすことのできる領域だ。
増山英太郎 センソリー・エバリュエーション p.68-78(味覚の特徴)
佐藤昌康(編)味覚の科学 朝倉書店 1981、p.197-243(味覚の心理学的基礎、味覚と嗜好)、p.269-272(官能検査)
佐藤信 官能検査入門 日科技連 1978や新版・官能検査ハンドブック(日科技連)などがよいが、準備が必要な部分はちょっと難しい。
山口静子(編)うま味の文化・UMAMIの科学 丸善 1999
10 嗅覚(1)(基本臭についての諸理論) 12/9 R004
T. Engen (吉田正昭・訳)匂いの心理学 西村書店 1990
R.Schmidt (Ed.)感覚生理学 金芳堂 1980 第7章味覚の生理学
11 嗅覚(2) 12/16 R004
匂いの分類の歴史
原臭の探求と匂いの表現方法
嗅覚の基本的な特徴
香り・嗅覚のはたらき:香りの心理学的応用・生理学的作用
12 嗅覚(3) 聴覚(1)1/6 R004
香りの心理・生理学的研究(心理効果・行動への効果・生理学的効果)(つづき)
嗅覚の応用分野(産業・医療)
聴覚の重要性(視覚と聴覚):ことばの知覚
聴覚の補償技術(補聴器と人工中耳・内耳)
「音の科学」基本的な聴覚感覚のデモ (次回)
- 可聴閾
- 音の三属性(高さ、大きさ、音色)
- 充填現象(失われた情報を補う働き)
- 無限音階
- 時間的制約
- 音の遊び:伝統的な音のしかけ(鳴き竜・うぐいす張り・水琴)
プレゼンファイル*「音の科学」(音・聴覚現象のデモ)、「聴覚補償」(聴覚の役割・聴覚障害とその補償)
13 聴覚(2)聴覚 1/13 R004
プレゼン「音の科学」 (続き)
- 耳のしくみ・聴覚障害とその補償:補聴器:人工内耳:言語聴覚士と心理学的支援
- ことばの知覚・音声のカテゴリー知覚
- 視覚と聴覚の相互作用(マックガーク効果)
*/音刺激の分析と記述・音の心理尺度・音のスペクトル表示)
音声刺激の特徴(フォルマント構造)
音素知覚学習(乳幼児)音素知覚学習(成人)
J. Ryalls 音声知覚の基礎 海文堂出版 2003
山田恒夫・足立隆弘「英語リスニング科学的上達法」講談社ブルーバックス(1998)
宮本健作 「声を作る・声を見る:九官鳥からヒトへ」 森北出版 1995
難波精一郎(ほか)「音の科学」 朝倉書店 1989 (いろいろな聴覚現象のデモテープあり)
「耳はなんのためにあるか」風人社
伊福部達 「音の福祉工学」 コロナ社 1997
音の環境(サウンドスケープ):音楽の知覚:騒音
14 諸感覚(皮膚感覚・空間・時間の知覚・幻覚)・感覚間の相互作用・まとめ「知覚と行動」 1/20 R004
(聴覚 つづき)聴覚障害とその補償: 人工内耳装着における知覚・発達心理学的問題
知覚の基本としての触覚
- 触覚の心理物理学的研究
- 視覚との類似・相違・相互作用
- 触覚における諸現象(仮現運動、「ピノキオ効果」)
- 「点字」
- 触覚を利用した感覚代行研究
触覚を利用した感覚代行の研究については、市川ほか(編)視覚障害とその代行技術 名古屋大学出版会1984、第4章知的活動の補助を参照してください。
触知覚における「仮現運動」現象については同じく、第3章をごらんください。
論文ではゲルダード、F.A., シェリック, C.E.、触覚の跳躍現象を探る、(日経)サイエンス、1986/9(vol.16,No.9),p.94-101.が読みやすいでしょう。
東山ほか「触覚と痛み」ブレーン出版2000第一部
温・冷感覚
- 温・冷感覚の心理物理学
- Weberの三つの器の実験
R. Schmidt (Ed.)感覚生理学 金芳堂 1980 第3章 体性内臓感覚能(温度感覚)p.102-111
感覚間の相互作用:共感覚現象
共感覚については、
山梨正明、比喩と理解、東京大学出版会、1988。
月刊言語1989/11月号、特集五感の言語学
を参考にしてください
知覚と行動
知覚・記号化・認識過程を、同調現象・弁別・「身分け」・「言分け」をキイワードとして再構築し、「知覚は行動のためのデッサンである」というこの講義の主題のまとめにして、人間の全体的な「生きられる環境世界」を想像してみよう
知覚の発達理論(分化説)・認知的な知覚論(二要因論)・知覚と文化をとりあげ、まとめとする。
市川浩「身の構造」
分化説については、R.S. シーグラー、「子どもの思考」 誠信書房、1992 第5章知覚の発達を参照してください。
15 定期試験 1/27 R004
(ノート・配布資料のみ持ち込み可)
話すことが出来なかったトピック
「手応え」の世界:アフォーダンス理論
間接的な知覚・媒介された知覚
道具を媒介とした知覚。バイオフィードバック手続きのようないわば道具を媒介する「間接的な」知覚と新しい心身観について
バイオフィードバックについては多くの書籍がありますが、R.M.スターンほかバイオフィードバックとは何か:心と身体の健康法、紀伊国屋書店、1983
直感などのような感覚受容器の明確でない知覚体験について
知覚と芸術
対人知覚・自己知覚
推論・リスクの知覚・不確実性・偶然性の知覚
動物心理物理学
人の感覚能力もすぐれて精緻なものであるが、人以外の動物もすぐれた感覚知覚能力をもっており、むしろ人をしのぐ能力を示すものも多い。これらの諸能力を人間のそれと比較して見よう。
- 動物の感覚知覚能力を調べる動物心理物理学の諸技術
- これらの研究を通じて動物はどのような知覚的世界を生きているか(ユキュスキュルの「生きられる環境世界」)を探り、感覚能力の神秘に触れる。
人間の認知機能の源初的形態として近年動物の認知能力が調べられている。これらの研究にもふれ、人間の知覚・認知能力の特質を理解しよう。
文化による知覚の制約
「私」の知覚は他人の知覚と同じなのだろうか。異なる文化に育った人々の知覚様式は異なるのであろうか。この単元ではこのような疑問を巡って、
- 音声のカテゴリ−知覚の研究
(乳幼児はことばをどのように知覚しているのか)
- 色彩語の文化間比較研究(認識人類学的研究)
- さまざまな知覚現象の異文化比較研究を紹介し、感覚・知覚の文化的制約を考えてみよう。
知覚と行動・知覚の発達
時間と空間
- 時間の知覚
- 空間の知覚
- 空間の幾何学
- 小空間・中規模空間・大規模空間
- 移動と方向感覚(盲人・健常者の空間知覚)
- 認知地図・移動方略
- 身体と空間:パーソナルスペース
日経サイエンス 2002.12月号 時間とはなにか
「存在しない」知覚:幻覚
- 感覚遮断による幻覚
- 薬物と変性意識体験 幻覚発動剤(
LSD、大麻)や種々の習慣性薬物(アルコ−ル、タバコ、カフェイン)は変性意識状態をもたらす場合があり、特有の感覚・知覚的体験をもつことがある。
このような幻覚および知覚現象の科学的な研究については、シーゲル、R.K.
サイエンス、1977,12月号, 8-17.
R. K. Siegel, Fire in the Brain: Clinical Tales of Hallucination
(長尾(訳)幻覚脳の世界 青土社 2000)
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