わがはま日記

2003/5/12(月)「数式が絶対でてこない」

午後から実験実習。今学期は2年、3年ともそれぞれ刺激材料は異なるが、同じテーマでSD法と因子分析。この課題をとりあげるようになったのはここ数年のことである。ある程度の理解を得るにはどうしても半期程度かかるのであるが、論文などではよくでてくる手法であるので、まったく知らないわけにもいかない。ここらがこのようなテーマのややこしいところで、知らないなら全く知らない方がむしろ良いのかもしれないとも考えることがある。

それで、というわけではないが、「誰もおしえてくれなかった因子分析」(松尾太加志・中村知靖著)北大路書房(2002)というような本も出版されている。この本の副題は「数式が絶対にでてこない因子分析入門」というものである。たしかに、心理学や教育心理学などのの論文では因子分析は多用されているが、数学的な基礎から独習するというのはかなり困難なことであろう。

で、初学者に適当な参考書がなかなないのでこのタイトルから期待して購入してみた。著者の方も認めておられるようにあえて大胆な説明をされている点もある。しかし、仮に因子分析の必要に迫られた人がこの本のみで因子分析を勉強しようとした場合、どのように理解し、どの程度道具として使いこなすことができるのだろうか、というのが率直な感想であった。むしろ、ある程度理解できれている人の副読本にふさわしいものなのではないかと思う。「数式が絶対でてこない」こととわかりやすさはあまり関係がないようにも思うが、敷居をさげるためにはこのように徹底することも必要なのかもしれない。

入門としては「複雑さに挑む科学」(ブルーバックス、柳井・)が概念的な理解を得るという点でやはり優れていると思う。「複雑さ」で取り上げられている数値例をある程度解読できれば、「誰も教えてくれなかった」は次の段階として適切なワークブックになるのではないかと思う。習うよりなれろ方式で習熟することも必要なので、続編として例題の多くあるワークブックが出されれることを期待しているのだが、著者のお二人はやむにやまれぬ必要からこのような本を書かれたのだと思うが、道具としてここまで割り切ってしまってよいものなのか、という思いは残る。また、変なたとえだが、英語の達人にブロークンな英語でも充分ですよ、と言われているような気持ちにもなる。

心理学の分野では因子分析は質問紙調査法のデータに適用されるのがほとんどで、仮説的な潜在変数を「発見」することが目的になっている。しかし、因子分析法は質問紙ばかりではなくツールとしていろいろな共変動の分析に用いることができるので、共変動をもたらしている実質的な因子をさがすことにも適用することができるのではないかと思う。

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