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http://www.zdnet.co.jp/news/9812/08/diary.html

1998年12月8日

 

日記へのコメント追加で“偶然”に発生したオンラインコミュニティ

 

 Open Diaryは立ち上げ当初,自分のホームページを持たないユーザーが,“日記”を匿名で書くことができるという趣旨のサイトだった。開始から1カ月,このWebサイトは,別のタイプのオンラインコミュニティへと進化しつつある。

 この進化が始まったのは,読者が他人の日記にコメントを付けられるようになった時からだった。こんなシンプルな機能の追加だけで,このサイトは爆発的な人気を呼ぶようになった。時系列に並べられた他人の実生活の出来事に,自分の考えや出来事をどんどんコメントする――このプロセスは,活気のある仮想会議として発展した。

 Open Diary成功の仕掛け人は,このサイトの創設者,Bruce Ableson氏だ。もっとも同氏は,日記を書き込んだ人と読者のやり取りがこれほど活発になるとは想像していなかったという。「少し驚いているが,素晴らしいことだ」とするAbleson氏は,サイトデベロッパーであるAble Siteの社長を務めている。

 

偶然の人間関係

 

 もちろん,オンラインコミュニティ自体は目新しいものではない。ここ何年にもわたってオンラインコミュニティは,同じ地域に住んでいる人々や,同じ分野で働く人々,同じ趣味,関心事,病気の悩みなどを共有する人同士を結んできた。

 だが,Open Diaryで日記を掲載している人たちとその読者の関係は少し違う。彼らの出会いは,ある意味で偶然の産物だ。

 Open Diaryでは既に,(あったとしても)ほんの少ししか共通項がないユーザー同士で人間関係が築かれている。

 例えばここ何週間かを見ると,ある日記を中心に,アラブ首長国連邦の43歳の女性教師と,米バージニア州で店員として働く32歳の母親とのやり取りが行われている。

 この2人の女性は,仕事の嫌なことや個人的な問題を通じて互いにアドバイスしたり,慰めあったりしている。バージニア州の女性が親しい友人を亡くした際,中近東のこの新しい友人が彼女の支えとなった。

 こうしたタイプのやり取りが,Open Diaryの1300人の日記掲載者たちと,数知れない読者との間で何度も繰り返されている。3〜5人が参加するような対話もある。

「日記を掲載している人の多くから,“苦しんでいる時に読者のコメントに助けられた”というコメントが寄せられている」とAbleson氏。

 

時には悪質なコメントも

 

 だがこれらのやり取りが,いつも前向きなものとは限らない。

 ミズーリ州に住む41歳の女性は,彼女の3回目の妊娠について時系列で日記を掲載している。だが,これに対して辛辣で批判的なフィードバックが一部にあった。彼女は非常に悔しがり,この「愚かで,意地悪なコメント」を投稿した読者を批判した(この攻撃的なメッセージはその後,サイト管理者によって取り除かれた)。

 こうしたオンラインコミュニティ上で発生する友情や衝突は,実世界のそれに似ている。だが,コミュニティサイトの場合は成長と変化に従って,新たな目的が生まれてくると一部の専門家は推測している。

 Howard Rheingold氏は,そんなWebコミュニティの展開に注目している。同氏は,HotWiredの元上級編集者で,'93年に発刊された『The Virtual Community』など,技術と社会に関する著作もある。Rheingold氏によれば,現在人々は「オンラインコミュニティ」という言葉をあまりに広義に使い過ぎているという。

 

Webにとって“目新しい”コミュニティ

 

 Rheingold氏は,「“コミュニティ”という言葉が,ここでもあそこでも使われている。その定義は複雑なものだが,無料のWebページを提供するだけではコミュニティとは呼べない。そうした使い方には多少無理がある」と語った。

 同氏は,討論――すなわち個人間の相互対話――こそがコミュニティサイトを活気づかせるのだと強調する。

 また同氏は,オンラインコミュニティという概念はかなり以前から存在していたと語る。Webの前にも人々は,Usenetやlistservsなどを通じて展開的な対話を行い,やがてそれは初の「バーチャルコミュニティ」に発展していった。

「コミュニティ自体が新しいのではない。Webにとってコミュニティが新しいのだ」とRheingold氏は語った。

 

古くから存在するコミュニティサイト

 

 12年前に立ち上がった最古のオンラインコミュニティの1つ,The WELLのエグゼクティブディレクター,Gil Williams氏は,次のように説明している。このコミュニティが立ち上がったばかりの頃,「オンラインコミュニティ」という言葉は「社会主義者,過激自由主義者などの集団や,社会から外れた人たち」のための仮想会議を意味したのだという。

 The WELLは誕生したばかりだった12年前,主にWhole Earth Review誌のライターと読者のため電子掲示板として機能していた。'92〜'96年にかけてインターネットアクセスも提供するようになったが,'96年,このインターネットサービスプロバイダー(ISP)事業はHookedというサンフランシスコのISPに統合され,Whole Eearh Networksという新会社が設立された。

 Whole Earth Networksは現在,The WELLのサーバと請求書発行業務を担当している(ただしほかのコミュニティサイトと異なりサービスは有料で月額10〜15ドル)。

 時間の経過とともに,その他の専門的な集団がどんどんインターネット上に集まり,コミュニティを形成していった。

 Yahoo!のオンラインコミュニティ検索では,今でも古くからあるコミュニティサイトを何百と見つけることができる。例えば,「QuarryWorld ――採石,砂,砂利業者のためのオンラインコミュニティ」や,「CraftWEB Project ――かご細工,陶芸,織物芸術,ガラス工芸,宝石,メタル工芸,絵画,紙工作,木彫り/木版などの工芸各種を推進するためのオンラインコミュニティ」などだ。

 

もはや技術が中心テーマではない

 

 ノースカロライナ大学でコミュニケーションを教えるRobert Schrag教授は,Webの最も早い時期に多くのコミュニティを組織化した会員たちは,主に,テクノロジーについて話し合ったものだと語る。

「現在ではインターネットが成熟期を迎え,コミュニティグループの多くにとって,テクノロジーはもはや共通テーマではなくなった。人々を結びつけるツールにすぎなくなっている」(Schrag教授)

 オンラインコミュニティの概念はインターネットとともに,よりメインストリームに向けて成長した。そして世界中からあらゆるバックグラウンドを持つ人々が,ある時は鬱憤を晴し,ある時は意見を主張し,自らの声を発する場としてコミュニティサイトを形成していったと,WELLのWilliam氏は説明している。

 

インターネットの言語は一人称

 

 現在,コミュニティという概念は,インターネットにおけるもう1つのホットトレンドとして拡大した。つまり,各種機能が集合化したWebポータルである。The GlobeやTripodなどは,ホームページ作成ツールやコミュニティ機能とともに,ポータルで提供されているようなニュースヘッドライン,検索機能,無料電子メールなどを利用者に提供している。

 William氏は,日記サイトが流行るのも十分納得ができると言う。「インターネットの言語は一人称だからだ」

 だがオンラインで日記を掲載する人たちは,いずれ自分たちのことについて書くだけでなく,「日記の意味を再定義するようになるだろう」とSchrag教授は予測する。「紙の上に日記を書くことは自分との対話だが,インターネット上に日記を掲載することは,他人との対話を意味するからだ」

 8年近くThe WELLを見てきたWilliam氏は,「最大の変化は,かつてのように秘密めいたものではなくなったことだ」と語る。

 一昔前はシステム管理者だけのものだったのが,最近ではミドルクラスの母親同士が料理のレシピを交換するようになった。だがこうした母親たちの会話が,途中でほかのテーマに発展することもある。

 The WELLの,ディスカッションエリア(このサイトでは「カンファレンス」と呼ばれている)にはどんなトピックでもあるが,その1つに,参加者が互いを侮辱し合う「Weird」というカンファレンスのエリアがある。

 最近,このグループではお馴染みの古株ユーザーが,「ペットの死について感動的なコメントを掲載したところ,ほかの人たちはそれを一切中傷しなかった」(Williams氏)という。「彼のコメントは,自分の経験をカンファレンスで知り合った人たちと共有したいだけだったようだ。そしてメンバーは,それを尊重した」

 

ユートピアではない

 

 オンラインコミュニティの主な利用目的の1つが,信頼のおける新しい友人を探すことであるとするなら,今後サイトの発展に伴ってより顕著になるであろうもう1つの傾向は,Webポータルと深く連係された,スケジュールと個人データを組織化するツールだとJupiter Communicationsのアナリスト,Anya Sacaro氏は予測する。

「人々は当初,こうしたサイトを一時的に利用するだけだった。だが現在は,よりターゲットが絞られ,実用的になっている」とSacaro氏。同氏は現在,オンラインコミュニティサイトの広告の性質の変化についての報告書を作成中だ。

 組織化されたツールやカレンダーツールを提供するサイトが増えれば,これらのサイトの有用性が増し,広告主にとっての価値も高まるという。

 またRheingold教授は,将来的に,コミュニティサイトではより多くの機能が提供され,もっと使いやすくなるだろうとみている。

「Webベースのカンファレンス,インストタントメッセージング,チャット,Webパブリッシングなどがうまく統合されたサイトはまだ存在しないが,時間の問題だろう」(同教授)

 The WELLのWilliams氏もまた,こうした変化は実社会の変化と同じくらい自然なことだと語っている。

「オンライン上での“村”はユートピアというより,実社会の拡張と捉えたほうがいい。進化は,まだ始まったばかりだ」と同氏は加えた。

[Maria Seminerio,ZDNet/USA]


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