大学往来 

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2000/09/25(月)見学合宿(9/22・金・最終日)

二泊三日の見学合宿もはやくも最終日だ。藤沢のビジネスホテルを時間どおりチェックアウト。朝食は近くのドトールで軽く、と予定していたらなんと朝8時30分からということで、JR藤沢駅へ向かい分散して朝食をとることにした。一部連絡なしで次の待ち合わせポイントであるJR大船へ向かってしまった学生があって、その確認のため、あやうく遅刻するところだった。なんとか時間どおりに大船駅到着。MP社のKさんと会うことができた。ここからモノレールで移動し、MP社へ。

Kさんは第一回の卒業生である。ひさしぶりに会ったKさんはすっかりりっぱな「社会人」になっていた。MP社は一部防衛庁関係の仕事があるということで、工場への出入りの管理がしっかり行われていた。

会議室に案内されて、Kさんの上司にあたる方から会社の沿革について説明を受ける。この会社は各種のシミュレーション技術と精密部品で有名で、Kさんは自動車運転に関する部門にいる。Kさんは学部を卒業後、自動車運転適性検査でシェアーをしめるD社に入社。その後、そのキャリアーを生かしてMP社へ転職されたとのことだ。初日の航空医学実験隊で体験させてもらった操縦シミュレータもこの会社が製造したものだった。

現在は「教育訓練」、危険予測など実際の体験が困難な状況の模擬体験、適性の発見などが主な用途であるようだ。シミュレータにはさらにいろいろな適用分野における可能性があるように感じた。運転や操縦場面ではG加重の再現が難しいため、どうしても不自然な感じも残る。またコンピュータグラフィックスを使用する関係で画像のちらつき(慣れてくるとデジタル的にぱらぱらでているということが、「見えてくる」ようになる)の問題もあるそうだ。また、テストする項目をランダム化するのだが、どうしてもあるパターンがでてきてしまう、といったプログラム上の問題もあるとのことだ。これらは「人間的条件」がおおいにかかわってくる問題で、心理学的な問題でもある。

最初に、自動車運転、オートバイ運転のシミュレータや、「電車でGo」の「オリジナル」バージョンが設置してある展示室を見学し、学生が実際に体験した。Kさんが関わっている自動車(オートバイも含む)用のシミュレーターは実際に自動車学校や運転免許更新の際の研修につかわれているそうだ。ただし、運転技能の訓練というよりは、「診断テスト」の側面でデータが集められているところ、ということだ。

次に見学したところは「アミューズメント」系のシミュレータの展示室であった。東京ディズニーランドなどのテーマパークに設置してある機械の小型版といえばわかりやすいだろうか。映像とシンクロした観客が体験するであろう動きが6軸の支柱をコントロールして与えられる。デモ用のプログラムは、「ちいさな女の子がテディベアのついた風船を離してしまい、飛んでいった風船を、お父さんが車とヘリコプター、モータボートで追いかけていって無事とりもどす」というかなり無理のあるストーリーではあったが、なかなかおもしろいものだった。実写とCGを組み合わせた映像。

MP社は個人市場には進出していないが、ゲーム機の高性能化で将来参入の可能性があるかもしれない。MP社で作っている製品には、行政や、その製品に関するいろいろな法的な枠組みと密接に関連して製品開発が行われている。運転免許に関して言えば「運転の適性」はどのように定められているのだろう。行政的にある基準が考案される。それを測定するシステムが企業から提案される。これらの「交互作用」を通じて「運転適性」が公のものにされていくという側面がある。新しいところでは「バリアーフリー」環境の提案があるようだ。法律と企業、行政と企業の関係の一端をかいま見た思いである。

シミュレーターの話を聞いておもしろいと思ったことは、「現実に忠実」にするとかならずしも「リアル」に感じられない、ということだ。シミュレータそのものの制約もあるのだろうが、昔、カラーテレビの信号方式を策定した時のように、人間的条件を組み込むことが問題の解決になるのかもしれない。

見学後、会議室にもどり、質疑。最後に「合宿の趣旨」をここでも話して、それについてKさんの体験や意見、感想をうかがう。ここでも航空医学実験隊、T香料で聞いた感想に似ていた。つまり、直接的に役にたったのはコンピュータの知識、実験的な方法であったようだ。

社内の食堂で「豪華」昼食をいただき、学生時代のことなど話す。この食道は社員食堂というよりも「お客様」向けという感じの「レストラン」で、このような施設がほかにも数カ所あるそうだ。卒業生であるということで、就職活動の話題にも触れてくれて、今年あたりで、だいたい3年生の春休みのころがその時期ということだった。就職「対策」としては希望する企業で、いかなる「人間的条件」がどのあたりに存在していて、それにかかわる仕事をしたい、と述べることは(たぶん)プラスに働くのではないだろうか?

昼食後Kさんの見送りを受けて、帰途へ。モノレールの駅で鎌倉方面を回って帰る学生と大船方面から帰るグループに分かれて現地解散した。学生諸君には「心理学」のイメージと一見かけ離れているように感じられたかもしれないが、どのような印象をもっただろうか。おつかれさま。


2000/09/24(日)見学合宿(9/21・木・二日目)

朝、大学セミナーハウスをたち、横浜線・相模線で茅ヶ崎に予定よりすこし早く到着した。八王子からははだいたい1時間30分ほどかかる。茅ヶ崎で乗り換えたが、横浜付近で事故とのアナウンスで、ちょっと焦った。ちょうど運転再開された模様ですぐに平塚行きの電車に乗ることができた。平塚駅で、U大学のm先生、K学園大学の院生Kさんと、今日から参加の学生数名と待ち合わせた。幸いあまり時間の遅れなくT香料研究所に到着。

見学先のT香料工業に勤めるNさんは本学を卒業後、大学院はm先生のところに進学した。その縁でこの研究所に勤めるようになったのである。Nさんも就職して2年目で仕事にも慣れてきた頃かと勝手に想像して見学のお願いをした。Nさんを含めて、ほとんどの方が研究所の作業着(ユニフォーム)姿である。

所内の食堂で昼食をいただき、午後から見学開始。先日の実験隊と異なりかなりソフトな印象である。大学の学部にたとえると、実験隊は工学部+情報科学部、T香料はアトリエのある芸術学部+ハイテク化学部といった印象である。

研究所は八階ほどのビルで各階に研究部門が分かれている。香料その他の化学製品関係の部門が多いのだが、心理学の関係しているのは官能検査関係、商品評価、マーケティング関係である。最初にN君の上司にあたる方からT香料工業の沿革についての説明を受けた。この分野では日本では最大手、世界でも五指にはいる規模の会社であるということだ。

つづいて、企業秘密上、直接見学できない部門もあったが、ビル全体をNさんの案内でツアー。あたらしい香りやにおいを合成するための香料試料のはいった小瓶が多数ならぶ部屋、匂い物質の特定のための測定器具類をみせてもらう。ガスクロマトグラフィーにはピークの特定部分を示す物質を分離して(そのガスを)提示できるようになっているものがあった。最後はやはり人間が嗅いでその官能的特徴を調べていく。

所内は場所によってはかなり強い匂いがして、なれないと頭が痛くなるほどの所もあった。Nさんなどはすぐ慣れますよ、と平気な顔をしている。ちょっとまいっていた学生もいた。匂いの研究は心理学の研究室ではやりにくいもののひとつである。それは実験室の設備の問題、試料の準備、測定器具をそろえるのが困難であるからだ。実験はなかなか難しい面があるが、官能評価法については心理物理測定法、心理学的測定法の手法を適用できる分野なのである。

官能検査室はブース式、集団式の部屋が準備されていた。また、シャンプーや石鹸などの商品検査室には実際にユニットバスが数セット設置されていて実際の使用条件での評価が行われるようだ。この「バスルーム」に簡易型サウナがやはり数セットおいてあった。最初は何かだわからなかったのだが、「汗」の採集用ということだった。なるほど「汗」や体臭は香料会社にとっては重要なマーケットだ。ちなみにしばらく前に「おやじ臭」の成分が特定されたことが話題になったが、これにはこの簡易型サウナが一役かっていたのだそうだ。

ツアーを終えて、会議室に戻り、香水のサンプル、香料試料を「試」香して、質疑応答の時間で見学も終わりに近づいた。

 匂いの試料

最後に、例のごとくこの合宿の「趣旨」をのべ、大変お世話になったN君に、心理学やそのほか大学で学んだこと仕事の関係についての考えや感想を話してもらった。会社にはいってすぐに必要だったのはパソコンの知識や官能検査関係の知識であったということだ。これらは前日のT氏の感想と似ていた。実験心理学の実験実習の内容がその基礎的な部分に相当する。

ただこれらの分野は以前から心理学や食品・醸造関係に研究の歴史があるのだが(見学に参加していただいたm先生はこの分野のパイオニアの一人でもある)、最近は「感性工学」など心理学以外の分野が「進出」するようになってきた。人間的条件の問題について他の領域でも非常に気になってきているのである。

最後に冗談半分で、「やる気」のでる匂いを開発して予備校や学校に売り込もう、というベンチャービジネスをもちかけたのだが、一笑にふされてしまった。あるいは、「戦闘意欲」を失ってしまう臭いで戦争を終わらせたり、テロリスト対策にできるのではないか等々。

記念撮影をして研究所をでたのはもう夕刻だった。


2000/09/23(土)見学合宿(9/20・水・初日分)

午前中JR立川駅改札付近にて現地集合。航空医学実験隊までバスで移動。受付をすませて施設内の厚生センター食堂で昼食をとる。いろいろな会社(メーカ)の作業着を着たグループがめだつ。各企業から出向されている方らしい。このほかに、施設内には隊員用の大きな食堂がある。大きな学食の雰囲気だが、「栄養の取り方」についての掲示や注意書きがメニューと一緒に並んでいた。

見学コースは昨年とだいたい同じである。円心力を利用した加重訓練装置は別の施設に移転したということで、今年は低圧訓練施設、空間感覚の訓練施設、研究用操縦シミュレーション施設を見学した。

低圧訓練ではちょうど何人かの隊員の方の訓練がはじまったところだった。ある低圧条件では人の認知機能はおおきく損なわれるようになる。逆算課題(指定された数から一ずつ引いていく)などもできなくなったり、文字もかけなくなってしまうとのことだ。この施設は通常の訓練のほかに「民間」の訓練も受け入れている。最近はテレビ取材等で高地にでかけるスタッフやタレントがここで訓練していくことがあるとのことで、「色紙」が廊下にかざってあったりする。航空用のスーツ、耐圧スーツ、ヘルメットなど4年生のJ君が実際に身につけていた。(類似の施設は名古屋大学の環境研にもある)

空間感覚の訓練室では昨年と同様に空間識の異常(空間識失調)についての話をうかがう。航空機事故の15%程度が空間識失調が関わっているとされるそうだ。われわれが「見て」いる情報と機器類によって知らされる「正確な情報」の食い違いが生じた場合、「実感」が正しいと誤って信じてしまうことがある。空間関係の錯誤が生ずる時である。これにはさまざまなケースがあるようだ。たとえば、閾値以下の値でバンク(機体の傾斜)していくような場合には現実には機体が相当大きくバンクしていてもそのことに気づかないことがあるという。これらをある程度シミュレータで体験することが訓練の一部になっている。これらの失調は発生条件が多様なうえ、経験や知識によらず現れるそうでなかなかやっかいなものであるようだ。どのような条件で錯誤が生ずるのか、それを克服するにはどうすればよいのか、ということが研究課題となっている。しかし、シミュレータではどうしても「不自然さ」があり、また「不安感」をつくりだすのは困難で、これが課題にもなっているということだった。

研究用シミュレータ室では昨年と同様に学生数名が練習機の模擬操縦体験をした。飛行コースは立川を離陸して、富士山付近で旋回・宙返りをして、夜の名古屋空港に着陸する、というものだった。たしか二人は「墜落」ないし、着陸時に機体損傷、一方A君はかなり「適性」ありそうということだった。ある学生は「茶髪」なのだが、「茶髪」と練習機シミュレータという風景を見て不思議な感じがしたものである。

 

実はこのシミュレータは明後日の見学先であるMP社のものであることに気がついた。ことしは旧知のT氏のほか、交通心理学を専攻されたというK氏、L氏、M氏にもいろいろ説明していただいた。

最後に質疑の時間。見学合宿は「社会のなかで心理学に関係した仕事場を見して見聞を広める」というのがその趣旨である。最後にT氏にこの趣旨に関して話をしてもらった。

T氏の場合には学生の頃からいろいろ準備され、心理学の研究を続けることができる環境として「公務員」を選択され、結果として現在の地位を得られた。現在の仕事との関係で勉強しておいてよかったと思ったこと、については研究方法に関する技能(実験方法、統計的方法)、英語、コンピュータであると言われた。

 

夕刻、見学を終え、大学セミナーハウスへ移動した。ことしは「記念館」を予約。部屋は昨年のユニットハウスとは大違いで、大変清潔で快適であった。宿泊費はやや高いが、それでも一泊二食で5千円ほどだ。受付の係りの人が大学のすぐそばの出身という偶然があって、懐かしがっておられた。この時期だと比較的すいているようで、われわれを含めて6グループほどの宿泊だった。このような施設が各地にあればよいなあと思う。

 大学セミナーハウス・20周年記念館

「大変なんですね」、というある学生の「感想」があった。たしかに、現実には大学や大学院で学んだ心理学を直接そのまま「生かせる」仕事というのはそう多くはない。それで、見学がかえって「逆効果」になってしまったか、とも思ったのである。しかし、ほとんどの仕事やその局面においては「心理学的な問題」が現れていることは確かである。この「心理学的な問題」について敏感であることが大切であると思うのである。どのような領域であれ。(私がイメージしている心理学的問題というのは「悩み事」相談的なものではなく、もう少し広く「人間的条件」に関わることがらなんです。)


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