グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ


法律行政学科ニュース

ホーム > 法律行政学科ニュース > 法律行政学科教員に聞く〜橋爪英輔助教・後編〜

法律行政学科教員に聞く〜橋爪英輔助教・後編〜


2021年の秋セメスターから憲法学を専門とする橋爪ゼミナールが開講され、1期では14名の学生が所属しました。担当教員やゼミナールについて質問形式で紹介します。後編は、分野とゼミナールについてのインタビューです。

*質問はPeing-質問箱-を用いてゼミ生が投稿しゼミナールで回答したものや、授業での質問等をさらに編集しています。

―ゼミナールは何をするのでしょうか。

橋爪:大学や学部ごとに異なりますが、常磐大学の総合政策学部の現行のカリキュラムでは、2年生の秋からゼミナールⅠが始まり、各教員のゼミナールに所属し、4年の卒業までに、ゼミナールⅡ・卒業論文Ⅰ・卒業論文Ⅱ・卒業論文Ⅲを履修します。これらは私が担当する憲法Ⅰや憲法Ⅱの講義科目と異なり、演習科目となっています。ゼミナールは各教員の専門分野のうち、興味があるゼミナールを選択して、卒業まで同じゼミナールに所属することになり、ゼミで学ぶ内容もやり方も各教員で異なります。フィールドワークを行なうゼミもあれば、文献講読をするゼミもあります。

―では先生のゼミナールでは何をするのでしょうか。

橋爪:私のゼミナールは2021年から始めたばかりで、ゼミ生の意見を聞きつつも、私が大学で所属していたゼミの方法を一部取り入れています。基本的にはグループワークとしており、A週は報告グループに、憲法のあるテーマについて報告やプレゼンをしてもらい、質疑応答を通じて基本事項等を確認し、理解を深める週とし、B週は報告グループでない履修者をランダムにグループ分けして、例えば「安全なSNSの利用のために必要なことは何か」という課題を30分程度の集団討論によって結論を出し、その後グループごとにプレゼンし、他のグループから質疑応答を受けるという流れを行います。これを繰り返していきます。集団討論自体は公務員試験で問われたものや問われそうなものをアレンジして出題しています。ゼミナールⅡではディベートもやる予定です。

グループ報告におけるプレゼン

―いきなりプレゼンなんてできるのですか。

橋爪:もちろん人それぞれ上手・下手はありますが、法律行政学科ではゼミナールがはじまる前の「基礎ゼミナール」という必修授業で、文献講読、文献のアウトライン(論理構造)の把握、プレゼン資料の作成、プレゼンの実践、集団討論の体験を行い、ゼミナールに必要な能力を養成します。他の人のスライドの作り方など良いところを取り入れることで、良いプレゼンができるようになっていきます。正直、最初のプレゼンのときから抜群に上手い履修者も結構いましたが、みんな3回くらいやると見栄えのいいプレゼンになっていましたね。

―集団討論とは何をするのでしょうか。

橋爪:目的が異なるため、議論の方法も異なります。集団討論は普段の会議のように、チーム(グループ)としてのより合理的な結論を導くために行います。チームなので、時間の中でチームの見解を決める必要がありますが、最初はひとりひとりの意見を表明し、互いに質疑や意見をだしあって、最終的な結論を決めます。場合によっては、対立する意見も出しながら、案の欠点などを克服していく必要もでてきます。ここでの思考は卒業論文の執筆でも必要で、Aさんの見解とBさんの見解を参照・引用してそれぞれの評価を行い、それを踏まえた自分の見解Cを導くという方法です。まなお、集団討論でグループのメンバーは、司会、タイムキーパー、書記など、役割分担を行うことも必要です。

集団討論の様子

討論結果のプレゼン

―ディベートはどのように違うのですか。

橋爪:これに対してディベートはGame(試合)です。つまり、2つのチームが対決し、審判がいて、採点し勝敗を決めます。自チームの主張が相手チームよりも説得的であることや、または、相手チームの主張の論理的な欠陥や非合理性を指摘して、審判に自チームの見解が妥当であることを示せば勝つことができます。実際の裁判で、裁判官の前で、原告と被告が弁論してたたかうことと似ていますね。ただ、私のゼミのルールだと、結論の妥当性よりもグループの協調性も必要で、1人ががんばってクリティカルな質問を与えたとしても、他のメンバーが自分のチームの主張内容を理解していなかったり、矛盾した内容を答えてしまったりすると、減点で負けてしまうこともあるのです。

大まかな流れをいうと、教員が事例問題を発表して、ゼミまでにグループ学習をし、立論シートを作ります。それを交換して、ディベートを行います。質問側のチームが1人を指名し、5分程度の制限時間で、相手に質問します。これを全員行ったら、攻守交代し、応答側のチームが今度は質問をしていく流れです。質問は相手の主張や立論の不備を突くものだと得点が高く、回答側が的確に反論できれば、逆に回答側の得点が高くなります。

例を言いましょう。例えば「Aという問題に対応するため憲法N条を改正すべき」というXチームの主張に対し、Yチームが「既存の法律の改正や新しい法律の制定ではAの問題に対応できないのは何故ですか」と質問し、回答側のXチームが十分に回答できなければ、「憲法改正すべきでない」というYチームの主張の説得力を増し、Xチームの説得力が低下します。逆にちゃんと回答できれば、説得力の低下はせず、場合によっては質問側のYチームの説得力が相対的に低くなります。これの繰り返しをしていきます。

―楽しそうでもあり、大変そうでもありますね。

橋爪:そうですね。ですので、ディベートは3年生のときに3回くらいできればいいと思います。このルールは私が学部生のときに参加していたディベートのルールをアレンジしています。院生のときに審判もしましたが、負けた側に悔しくて泣き出す人もいてそれくらい本気になってやる人もいます。ただ、法律、とくに憲法の題材だと、最初から立場の有利不利があるため、大事なのは、異なる結論を導くための論証や論理的思考中の対立点を、ディベートを通じて明らかにし、学習することです。ディベートの準備の際には、相手の主張における論証を予想したり、想定質問を考えたりすることが重要な準備になります。

―4年生では、何をするのですか。

橋爪:卒業論文を書くことです。レポートよりもずっと長く(最低でも12000字以上)、1年近くかけて書きます。あるテーマを選択したら、その問題の背景を説明し、先行研究(学説)や判例の見解を引用して紹介し、自分の意見を表現することが基本です。大事なのは書く時間よりも、先行研究の文献をたくさん収集し、読む時間ですね。12000字は3日程度で書けてしまう長さです。ですが、1年間のなかで、中間報告や教員の添削をこまめに行い、質の高い卒業論文の執筆をめざします。憲法なので、民法分野の家族と平等の問題、安全保障と憲法9条、死刑制度と憲法36条、地方自治など、いろんな分野と関連させて書くことも可能です。私は学部のとき「医学部入試をめぐる裁判」について書きました。理由は判決の日付が誕生日と同じだったからです(笑)。その後、社会問題になりましたけど。

―最後に、学生や志願者にメッセージを。

橋爪:本学科は公務員、特に市町村レベルの行政系公務員や警察官を志望している方が多いですが、私は法学を学んで良かったことに、法的な思考方法や価値観を身につけることができた点があります。物事の思考方法をフランスでは高校で必修となっている哲学で身につけるそうですが、それに代わる学問の一つは法学かなと思います。SNSの時代に右も左も極端で自分の意見と合うものしか見ないという人も多くなっていますが(いわゆる分極 polarizationが生じている)、対立する見解や多様な意見をどのように調整するかという問題に法学も貢献できるはずです。ですので、進路にかかわらず法律を学んでみるのは良いと思います。