見学合宿・2006夏

ゼミ合宿日誌 2006/9/1 航空医学実験隊


見学最終日

航空医学実験隊

 合宿最終日の見学先は立川にある航空医学実験隊である。最後に訪問してからもう5年ほども過ぎてしまった。12時45分に正門前に到着し、受付にいくと、見学申し込みの対応をしてくださったKさんが自衛隊のレインコートを着て待っておられ、見学先の第1研究棟まで案内してくださった。

研究所の概要

 会議室に案内され、まず研究所の紹介ビデオで所内の概要説明を受けた。いただいた航空医学実験隊の紹介パンフレットにそった内容で非常にわかりやすくまとめられていて、パンフレットで確認しながらビデオを見るということでとてもわかりやすかった。心理学に関係するのは実験隊第1部と第4部である。第1部は人間工学科、適性心理科、航空知覚科で構成されている。第4部は低圧訓練科で低圧状態での認知機能の変化や衰えという点で、加速度訓練科や空間識科で特殊な環境下での人間の知覚能力や認知能力について研究・訓練が行われている。

空間識実験装置

 ビデオ解説のあと、空間識実験装置を見学した。航空機の模擬コックピットを一定の加速度で回転させるかなり大がかりな装置である。一定の加速でしばらく回転していると方向感覚が失われてくる。このとき首を動かすと、めまい様の錯覚を感ずるという。これらを実際の飛行においても生ずるため、これらに対応できるように体験・訓練する目的で作られた装置とのことだ。今年はM君がのりこんで実際に体験できることになった。モニター室でコックピット内を見ることができるのだが、M君は落ち着いていてなかなか肝のすわったひとなんだなあと認識を新たにした。

低圧訓練装置

 航空機は低圧・低酸素状態の大気の中を移動する。このようなきびしい環境で人間は通常の行動をとることは難しい。たとえば、エベレストほどの高度の低圧・低酸素状態では一定数を減算していく認知作業もきわめて困難になるという。また、人間は低酸素状態を検知する感覚器を持たないのでいろいろな前兆状態等を知ることによって意識を失う前に対応しなければならない。このような訓練をするのがこの装置である。担当のAさんは明るいキャラクターでユーモラスに減圧実験のデモと説明をしてくださった。減圧室に、風船(通常気圧でしぼんでいる)、コーラ、血液と同様の性質をもつ液体を置いて減圧していく。急減圧によって減圧室には「霧」がたちこめる。さらに減圧がすすむと風船に残されていた空気は膨張し、コーラ、血液状サンプルは(その温度のまま)「沸騰」してきた。これでは人間は生存できないので航空機内は与圧されている。

 低酸素状態で、しかも加重がかかると意識を失ってしまうこともある。これらへの対応訓練が行われている。(名古屋大学にもこのような減圧室があったが、運動競技の選手などが「高地トレーニング」の代わりに利用したりすることもあったそうだ。)

航空機での「鼻ぬき」の仕方などを教えてもらう。潜水時も同じだろうか。

射出脱出訓練装置

 続いて、緊急脱出訓練装置を見学。緊急時にパイロットを座席ごと打ち出す脱出訓練装置である。映画などでもこのような脱出シーンを見かけることがあるが、実際には、緊急脱出それ自体かなり危険なことだという。12〜14Gの力が一瞬にかかるためそのための訓練が行われるということだ。

感想

 見学を終えて、会議室にもどり竹内さんから補足説明と質疑の時間をもっていただいた。我々にとっては非日常的な世界であるためか、驚くことが多かった。

 航空医学実験隊の心理関係部門は通常感覚の通用しない環境での知覚特性、人間行動、認知の特徴、あるいは「適性」の問題が研究対象になっている。人間の特徴として心理学がとりくまなければならない重要なテーマは(このような研究室の課題のなかに)明瞭に現れているように感じた。

 最後に、竹内さんにこのような仕事につかれたきっかけや動機についてうかがった。フリートークには適性心理学部門のBさんも同席されていたので学生にはなにかの参考になるかと思ったからである。竹内さんはR大学で心理学を学ばれたのであるが、心理学の専門職としては、労働省や法務省、通産省(当時)などの専門官が魅力的な職場だと考えられ、公務員試験の受験準備をしてみごと合格された。配属先の決定の際に、航空医学実験隊は学んでこられた実験心理学を生かすことができそうだと考え選択されたということだ。公務員試験の猶予期間を利用してC大学院へ進学して知覚心理学の研究をされた後にここへ赴任された。

 Bさんは技官として採用されて10年ほどになる。適性心理学の分野で知識を生かすことができて、やっと実験隊で必要な研究や課題が判断できるおゆになられたと謙遜されていたが、仕事は楽しいということだ。 しかし、一般的にはこのように心理学の専門家としての「職種」が明確な職場は現在でもそれほど拡大しているわけではない。

 「適性」という話題で、竹内さんは、「適性は本人にもわからない。パイロットの例でいえば、むしろ、明確な目標達成への意思が大切」と述べられた。

 パイロットは非常に多数の人々、組織によって支えられている。このさまざまな局面において人間的条件・心理学的条件が現れてくる。たとえば、現代のジェット戦闘機の性能は人間の操縦能力を超えたものだという。そこでは(古い表現だが)人間・機械系・情報系一体となった研究が必要とされている。この方面の心理学には古典的なトラッキングについての研究があるが、最適な情報表示方法や操作感覚を実現するための基礎的な研究の可能性があるのではないかと思う。

 



臨光謝謝

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